公立学校の成績やデータ、どこまで開示すべきだろう?(~経済格差×教育格差に直面したNYその1~)

NYにきて、強く感じるのが、経済格差が有む教育格差というもの。特に娘の通っていた学校が、NY市の抱える教育格差を解消する試みの一環で作られた学校であったということからも、この問題については特にこの一年よく考えさせられました。経済格差×教育格差について、いくつかの話題に分けて、NYで感じたことについて書いていきたいと思います。テーマが重たく、広範なので、うまくまとまっていないと思いますが、ご容赦を。。。

今日は、公立小学校の成績開示から考える教育格差の問題について。

ニューヨークでの小学校選びで気づいた問題

娘が先日Kindergartenを卒業しました。「卒業」と書くと、日本の幼稚園や保育園の「卒園」を思い浮かべる方が多いかと思いますが、アメリカではKindergartenは小学校0年生のような扱い。娘の同級生はそのまま1st Gradeに「進級」します。Kindergartenのカリキュラムも、各学校によりますが、テストや宿題もあり、算数も国語も理科も社会も体育もあり、小学1年生のような内容だなという印象を持ちました。

そのため、どこのKindergartenに入れるか、というのは、親にとっては、その後何年間も過ごす学校になる可能性が高いので、非常に重要な課題になってきます。我が家でも娘のKindergarten選びは重要な問題でした。

そんなKindergarten(小学校)選びのときに驚いたのがデータ量の多さです。そしてこの膨大なデータ量が公開されているという状況に直面したときに、わたしは、NYでの経済格差×教育格差というものについて改めて考えさせられ、その上で、格差が進んでいると言われる日本においてもいつか我々が直面し考えていかなければならない問題なのではないかと思うに至りました。今日はNYの小学校の現状を少しご紹介した上で、公立小学校の情報開示について思ったところを書きたいと思います。

膨大な数値化された公開情報

まず、NYC Department Education(NY市教育省)が提供する情報が日本とは比較にならないほど充実しています。たとえば、NY市は毎年、NYC Department EducationのHP上で各学校毎のアンケート、州統一テストの結果、その他の登録情報に基づき、各学校についてのレポート(その名も”School Quality Snapshot”=”学校の「質」報告書”。。。)を公開しています。レポート(サンプル)の一枚目がこんなかんじです。

School Quality Snapshot

ここでは、生徒の人種構成、英語非ネイティブの割合、出席率、教師の出席率、経験年数、校長の着歴年数にはじまり、生徒の達成度(統一テストにおける成績)、教師の指導力、学校と親との結びつき、親の学校に対する信頼度、などがあらゆる情報が数値化されて提示されます。レポートの2ページ以降はさらに各項目についての詳しい分析結果が提示されています。

ちなみに、統一テストの学校および学年毎の結果は、すべてNYC Department EducationのHP上で一覧が公開されています。エクセルをダウンロードして自分でいじれば、各学校の「成績」順位が一目瞭然

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なお、実際、わたしも、娘の通っている学校について、NYCより提示されたものすごい長いアンケートに先日答えました。おそらくこれらの結果が集計されて、2014年度のSnapshotに反映されるのでしょう(ちなみに、質問項目は細かく、質問リストは長いのですが、書面でも、ネットでも回答可能なため、親の負担はそんなに大きくありませんでした)。

市政府が提供するデータだけではありません。市政府が提供するデータに加えて、それぞれの組織が独自に集める情報を利用して、様々なサイトが、各学校の詳しい情報やランキングまで提示したりしています。たとえば、こんなサイト→Great! SchoolsInside Schools。ちなみに、NYCで1,2を争うと言われている公立小学校についてのInside Schoolsの情報ページはこんなかんじで、この学校は、☆An Insideschools pickと記載されているとおり、このHPを持っている団体のお勧め学校のよう。

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試しにInside Schoolsで娘の学校や近所の学校を調べてみたところ、学校の日常風景、校舎の様子、カリキュラムについても非常によく情報がまとまっていて、提供されている情報の正確性は高いと思いました。

ちなみに、東京都のいくつかの区のサイトを見ても、ここまで細かい情報は全く出ていませんでした。そもそも、学校毎に区分された情報は、ほとんど見あたらず。

豊かな情報は確かに便利

なお、私が話しているのは、あくまで、公立小学校の話です。入試の伴う私立中学や公私立高校の話ではありません。一部の公立学校ではGifted and Talentedという天才児向のプログラムを提供しており、市が提供する試験にパスしなければ入れないのですが、そういった学校をのぞけば、基本的に公立小学校に入試があるわけではありません。

なぜ、公立小学校なのに、こんなに細かい情報を政府が率先して集め、公開し、そしてそれが様々な形で提供されているのでしょうか

それは、私の勝手な推測ではありますが、「同じ公立学校でも、地区、学校によって、その質が全く異なるから」なのではないかと思います。いろいろな理由はあるでしょうが、それが一番大きい理由だと思うのです。

地域の格差が公立小学校の違いを生んでいる

NY市は不思議なところです。超資本主義をそのまま体現しているような町だとつくづく思います。小さな島とその周辺に、世界中から集ったとんでもないお金持ち達が住んでいる一方で、明日の生活すら見えない、明日の命ですら危うい人たちも住んでいる町。きらびやかなお店やマンションが建ち並ぶ超安全な通りを一本奥に入ったら、有色人種しかいない暗くよどんだ通りになったりする通りもあったり。深夜に飲み歩き、午前様に徒歩で平気で帰宅していた私ですが、それでもハーレムやブロンクスを歩くときは、日中であっても緊張します。

つまり、NY市は、地区によって、そこに住む人たちの経済状況が、驚くほど異なるのです。

そして、経済状況が異なれば、地区の治安も異なる。そして、家庭の経済状況は各家庭の教育熱にもつながりやすいといわれています。さらに後述のように如実に学区の経済状況が学校のカリキュラムにも影響を及ぼしうる。結果的にこれらの違いは、地区毎の学校の雰囲気、教育内容、質、生徒の達成度の違いにも影響を及ぼしていくことになるのです。

もう少し詳しく述べたいと思います。

NY市の公立学校は、どうやら私の知る限りは、日本の学校と比べて、各学校の裁量がとても大きい。たとえば、学校毎に教師の採用をやっていたりします(少なくとも私が子供の時、私の育った地域では地域内の学校の採用については基本的に教育委員会が一括管理していた)。そして、その広い裁量により、同じ公立学校でも、学校によってカリキュラムが大きく異なるそうです。たとえば、一クラスあたりの担任の先生の数すらも学校によってまちまちだときいたときは驚きました。

公立学校であるにもかかわらず、なぜカリキュラムに違いが生じるのかというと、親の「貢献」が学校の予算に大きな影響を及ぼしているから、という見方が強いです。これは結構カルチャーショックでした。

どういうことかというと、PTAがしっかりしている学校などでは、ファンドレイジングのためのイベント(大規模なバザーやオークションのようなもの)が毎年開催され、その売り上げは、学校の資金に組み込まれるのです。イベントで使われる商品は親から出されるもの。私が友人から聞いた、友人の子供が行っている公立学校のファンドレイジングイベントの売り上げは、何十万円とかそんな単位ではなくかなり巨額なものでした。大きな売り上げをそのイベントで立てて、それをもって、充実した、社会科見学や、プログラムにつなげているとのこと。つまり、学校毎の追加の資金は、結局当該地域に住む親の経済力が如実に反映したものになるのです。

(日本でも、公立小学校、中学校でも、評判の良い学校、評判の良くない学校、というのはありました。そして、概して、そういった評判は、当該学区の据えられている「町の雰囲気」と少なからず紐付いていたと思います。しかしながら、(地域によっては、特定の地区に対する根深い差別や格差というものが未だ残っているのだと思いますが、)少なくとも私の生まれ育ったところでは、学校の違いというものは、NY市のような大きな違いではなかったように思います。そもそも、ファンドレイジングのようなイベントはなかったし、先生方も、教育委員会の指示の下、定期的にいろんな学校をぐるぐるまわっていたし。地区の雰囲気等についても、多少のよしあしはあっても、NY市のような違いを感じたことは一度もなかったです。)

このように、NY市では、同じ公立学校でもかなり、その質に差があるのです。。。そうすると、地区や学区による明らかな違いというものを普段見聞きしている、NY市に住む親としての立場からすると、各学校毎の豊かな情報源というのは非常に便利であり、安心材料となります。おそらく、NY市もそのニーズに応えるべく、このように詳細な情報を収集し、公開しているのではないかと思うのです。

確かに便利。便利なのですが。。。でも、社会全体でみたときに、果たして本当に良いことなのかどうか、という点については、私は少し疑問を持っています。

学校毎の成績開示は教育格差の助長?

公立学校なのに、なぜか、「ランキング」すらつけられているNY市の小学校。成績の良い学校か悪い学校か、白人が多い学校か有色人種が多い学校か、というのもデータで一目瞭然。とすると、何がおきるのか。

結局、経済的に余裕がある層(そして、こういった層は、教育熱が比較的高めな層と重なることが多い)は、子供がKindergartenに申し込みをする前までに、良い学校がある学区に引っ越しをするのです。もしくは学区指定がない有名な公立学校に抽選覚悟で申し込むか、私立を選択するのです。すると、あまり良くないとされる学校と、良いとされる学校に差が生まれてくる。。。すると、ますます、経済的に余裕のある層は、良くないとされる学校を避けるようになり、特に学校の質を考えない又は経済的に余裕のない家庭は、自分たちの住む学区の学校に子供を通わせることになり、ますます、良い学校とそうではないとされる学校の差が広がるのです。そして、それは、当該学区の家賃相場にも影響を及ぼしていき、ますます、金持ちの住む学区は良い学校となり、そうではない学区にある学校との差が拡大していくのです。

こういった教育格差の助長という背景には、もちろん、第一に、市政府が、各公立学校の質をきちんと統一するような制度設計をしていない、ということがあると思います(そもそも、貧富にかかわらず一律の教育を提供しようという公立学校の基本概念からかなりずれている点。。。)。また、すでに述べたように、NYの加速する超格差社会という現状もこういった差を強めているのかもしれません。でも、ささやかなことかもしれませんが、こういった、公立学校の成績開示、情報開示も少なからず、こういった格差助長の一端を担っているのではないかと思うのです。

なぜ、この話題を出したかというと。。。

なぜ、あえて、「公立学校の成績開示」を今回の話題に据えたかというと、日米の違いにすごく驚いたということもありますが、これは近々日本の社会でも直面していく問題なのではないかと思ったからです。

日本でも(アメリカほどではないにしろ)格差が進んできていると言われています。日本にいたとき娘は小学生ではなかったので今の日本の公立小学校の様子は知らないのですが、格差が生まれれば、NY市の状況と同様、学区毎の、学校ごとの「差」というのは少なからず拡大していく可能性があるのではないかと思うのです。

渡米前、娘は3歳児であったにも関わらず、わたしは、どこどこ小学校はいいらしい、どこどこ小学校はやめた方がいいらしい、という噂を耳にし、日本に残るのであれば、学区もふまえて引っ越ししなきゃなあなんて思ったものです。そして実はそのときに思ったことが、「どうしてこう、ふわふわした情報しかないんだ!もっと学校毎のデータをちゃんと集計して区として都として情報を公開してくれ!」ということ。

学校毎の差をなんとなく感じるようになれば、親は不安になり、わたしのように、より細かい正確な情報、具体的には、統一テストの成績等の情報公開をもとめるようになっていくのではないかと思うのです。そういった市民の声が強まれば、おそらく、地方政府もそういったニーズに応えようと情報収集や情報開示に乗り出していくケースが出てくるのではないでしょうか。

仮にそういった状況になったとき、詳細な情報開示がもたらす功罪について、私たち親は、自己中心的にならずに、きちんと客観的に考えなければならないと思うのです。日本では、公立小学校の情報をもっと出してくれ!と思っていた私ではありますが、NY市での体験を経て、日本での私の考えは少し浅はかだったなと思ったのをきっかけに、NY市の状況には、今後の日本の公立小学校あり方を考えていくヒントがあるように感じたため、少しニッチな話題ではありますが、記事にしてみました。

ま、「日本の教育制度そのものは、かなりしっかりしているから、いくら経済格差が生まれても、NY市ほどの公立学校の差というものが生まれるはずはない。成績開示の要否などは取るに足りない問題である」と堂々と言える状況が日本では続くといいんですけどね。

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