私がこどもを産んだワケ(「キャリアを追及する限り出産のベストタイミングなんてない」)

「こどもを産むタイミング」に悩む女性に伝えたいこと。

わたしの友人(30歳前後)を見渡すと、最近は第1子出産ラッシュ。早くに子供を産んだ友人は二人目のタイミングをはかって悩んでいる声をききます。転職したばかりだから、異動したばかりだから、昇進間近だから、と子供を産むという選択肢を先延ばしにしている声をよく聞きます。そんな中で感じたことを、自分の経験を交え、少しばかり。

突然の妊娠

入社当初から、私の目標は、海外留学することでした。正直に言えば、海外留学して○○がしたい!という大層な目標があったわけではなく、単にアメリカに行って学生生活を送ってみたい、というミーハー心から芽生えたものでしたが。まだ私自身は記憶にも残っていない位幼い頃、父が米国留学し家族で米国に住んでいたということがあり、当時の思い出を今でも懐かしく話す両親の姿を小さい頃から見ていたということも、そのよくわからない海外留学への欲求のひとつの源泉だったかもしれません。

とはいえ建設的に将来を設計することが昔から苦手なわたしは、あこがれているくせに、大学時代は基本はサークルや恋愛にうつつをぬかし、学生時代は短期留学はおろか海外旅行ですら殆どいったことがなく、それでも海外に漠然とした憧れをいただき続け、入社したのは総合商社。当時配属された部署では、一定の年次になると留学に出すのが主流だったというのもあり、入社してまもなく、漠然とした「海外生活への憧れ」は、留学に行くという現実的な目標に変わっていきました。

ところが、どっこい。人生はそう簡単にはいきません。それまでは同部署の粗全員が既定路線で行けていた留学も、色々な人材を育てるという会社の方針の下、留学選考の門は少しずつ狭くなっていきました。そして、さらに、なんと、入社二年目の終わりの頃、思いもよらない妊娠の発覚。

男社会の総合商社という会社の中では女性比率の高い部署ではあったものの、入社二年目に妊娠している人なんてそんな先例はなし。というか、知る限り、授かり婚なんて聞いたことなし。キャリアがほぼゼロの中、子供を持ちながら実績を積んで留学選考に選ばれた人なんて当然いない。というか、そもそも、大学の友人も会社の同期も見渡す限り、子供を産んでいる友達なんてゼロ。というか結婚している女の子すらいなかった。もうパニック。

でも不思議なことに、子供を産まないという選択肢は自分の中でなかった。それでも尚、こんな若手のタイミングで出産?!というかデキ婚?!結婚?!両親になんて説明するんだ?!仕事は?!キャリアは?!留学は?!周りに類似例もない中、若い私はどうしたらいいものか悩み毎日泣き、ひいてはストレスから切迫流産になり寝込んだり。産まないという選択肢はなかったのだから、建設的に前向きに物事を考えればよいものの、毎日、自己管理の甘さを嘆き、親を落胆させることを嘆き、自分が思い描いていた「輝かしいキャリアウーマン」という将来像の崩壊を嘆き、とにかく色々な考えても仕方のない不毛なことが頭の中をグルグル巡って悩んでいました。

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「キャリアを追及するなら子供を産むのにベストなタイミングなんてない」

そんなわたしの不毛な嘆きの連鎖を止めたのは、パートナーの言葉でした。「キャリアを追及するなら子供を産むのにベストなタイミングなんてないよ。」

彼は続けました。「仕事に慣れてマネージャーになったらそれこそ産休なんてもっと取りづらくなるよ。キャリアを積みながら子供を産むタイミングをはかっていたらこどもを産めないよ。だから、授かったタイミングで産めるのであれば、産んだほうがよいよ」と。さらに、彼はこうも言いました。僕は、君のキャリアを応援するよ、留学したいならすればいい、やりたいことをなんでも応援するし好きなようにやればいい。こどもを産むベストなタイミングなんてないけど、こどもを産んだからってできなくなることもない、と。

彼は自分の言ったこのセリフを覚えていないらしいですが(きっとそれくらい本人はかるーく言ったセリフかと思いますが)、つらいとき、この言葉は繰り返し不死鳥のように私の中で蘇っては、頑張る原動力になってきました。

子供を産んで6年が経とうとする今、振り返ると、彼の言葉は正解だった気がします。結果的に私にとって、6年前に産むという選択肢をとったのはベストなタイミングであったと思うのです。

たとえば、妊娠中切迫流産・切迫早産で長期休暇を取得したり、仕事に穴をあけ周囲に迷惑を沢山かけましたが、それでもマネージャークラスとなって即戦力であるときに穴をあけるよりもそのインパクトは小さかったのではないかと想像します。

もちろん、復帰後は本当につらかったです。そもそも仕事のペースもつかめきれていない、技術も能力も身についていない中で長期休暇に入ったのちに子育てをしながら同世代と同じ結果を残していかなければならないのは、本当に本当につらかった。若いうちに産んだがゆえのデメリットはいやというほど体験した気がします。それこそ毎晩夫の前で泣き、それまで体験したことのない体の不調も体験しました。でも、若かったからこそ、体力がありました。また若さゆえの無鉄砲さも。不器用な私ががむしゃらに仕事と育児をなんとかこなしていけたのは、若く、気力と体力があったから。それから若さゆえの無邪気さゆえか、元来の無神経さゆえか、人に頼るということも厭わず、困った時にみんなに助けを求めることができたから。結果的に同年代の人から置いて行かれているなあという焦燥感を感じることはあまりありませんでした。

こどもを産み、育てるということは、本当に大変なこと。ひとつのプロジェクトを成立させると皆大騒ぎ。だけどこどもを一人育てることについては、「当然皆やっている」ように映るけど、そんなことない。こどもを育てるのってひとつのプロジェクトを成立させるのと同じくらい、いやきっとそれ以上にすごいこと。それを家族という少人数チーム(時に単独)で実践するわけですから、その大変さ、費やされる労力は果てしないもの。会社で仕事をした上で、ほかで、巨大なプロジェクトマネージャーにならなくてはならないのは、とんでもないパワーを使うわけで。その大変さは、人生のどのタイミングで体験するものであっても一緒のはず。どのタイミングでも、それぞれ別のタイプのデメリットとメリットがあるんだと思うのです。

キャリアの構築は、大なり少なり、自分の裁量が利く範囲。一方でこども授かるかどうかということについては、こればっかりは、誰も決められないこと(ある程度は医学的にコントロールができるようになってきたとはいえ)。経済的にこどもを育てられる環境にあり、こどもをほしいと思っている女性は、タイミングを図りすぎることなく、こどもを持つという選択肢を早いタイミングから視野にいれてもいいんじゃないかなあと個人的には思うに至っています。こどもを産んで6年という短い期間ではありますが、そして私自身日々葛藤の連続ではありますが、キャリアなんて、いくらでもどうとでもなるんじゃないかなと、思えるようになってきた、そんな今日この頃。

子供を産むタイミングをはからなくていい職場づくり

もちろん、そんなのんきなことをいえるのは、お前がとんでもなく恵まれた環境にあったんだろ、という突っ込みは入るかと思います。そのとおりです。温かく見守りつつやりたいようにやらせてくれた、助けてくれた家族、上司、同僚、友達がいたから、いえることだと思います。でもそういう突っ込みを入れるひとにわたしはいいたいです。だったら、わたしのようにのんきなことを言える女性社員をもてる職場に社会にしたらいいじゃないですか、と。

そんな簡単なことじゃないとわかっています。でも、こどもを産んではいけないという法律はありません。社則だってありません。そんなの労基法違反です。というか憲法違反です。躊躇させるのは、制度ではなく、人の意識なんです。それぞれが「こうでなければいけない」という意識を持ち、それを暗黙のルールとして、その暗黙のルールに囚われてしまっているんだと思うんです。だったら、その暗黙のルールを築いている、個々人の意識をひとつひとつ壊していけばいいんじゃないかなと思うのです。

ひとりひとりが変わっていけばいいんです。そのためには、まずは、女性自身が、自分を見えないうちに縛っている「こうでなければいけない」という暗黙のルールから解放してあげるべきだと思うんです。若手のうちには妊娠すべきではない、転職直後にはこどもは産めない、昇進前後にはこどもを産めない、そんな暗黙のルールから自分を解放してあげるのが、職場がかわる社会がかわる第一歩なんじゃないでしょうか。

マタハラやら、子供を産んだ女性への戦力外通告やら、そんなことが問題視されている日本の企業では、私の言っていることは絵に書いた餅なんでしょう。でも絵にかいた餅も職場中に近所中に貼りまくれば、みんな、それを現実に手に入れなければならない餅だと気づいていくのでないでしょうか。くだらない暗黙のルールをやぶる人が増えれば、もうそれは暗黙のルールではなくなるから。

アメリカにきてから、日本企業の米国法人で働いているアメリカ人マネージャーと話をしていてびっくりしたことがありました。当時わたしは、自分の今後のキャリアについて悩んでおり、こんなことを言いました。「社内で今後これこれこういったキャリア形成を思い描いているが、自分のやりたいキャリアを会社で求めいくのならば、またしばらく二人目のこどもを持つのをあきらめざるを得ないと思っている。このタイミングでこどもを産むということは、まわりに迷惑をかけるし、それが許されるとも思わない」と。そのアメリカ人マネージャーは、あきれ返ってこういった趣旨のことを言いました。「こどもを持つことはプライベートなことである。そこは会社がとやかく言うことではない。会社にとっては、能力がある社員を確保することができるかどうか、多少のコストを払ってもその人材を確保することがメイクセンスするかどうかということが唯一の問題である。メイクセンスするからそのポジションを与えているのであって、例えば、昇進させた直後に産休をとっても、産休後に期待した働きをしてもらえればいいはずだ。キャリアを考えてタイミングをはかる理由が理解できない。」ああ、なるほどね、と思いました。超合理的なアメリカ的な考え方だと思いましたし、それはわたしにとって心を軽くする考え方でした。日本企業の風土を十分に理解しているアメリカ人の発言だったから余計に心にすっと入ってきました。

こどもを産むタイミングで悩んでいる、あなたへ。そして同じように葛藤している自分自身へ。そんなこと悩む必要はないと私は思います。だってベストなタイミングなんてないですもん。こどもをほしいと思えば、それを躊躇することもない。逆に、こどもを産むことを頭にいれてキャリアのチャンスをあきらめる必要だってないんだと思います。あなたをそのポストに置くことで、会社としても利益をだせると考え、だからこそそのチャンスが与えられているんですから。堂々としていればいいんだと思うんです。

ただ、こどもを産んでキャリアを追及する、っていうのは並々ならぬことではないし、その環境が十分に日本の社会で整っているとは思いません。「キャリアはどうにでもなる」なんてお気楽なことをいえるのは一部の恵まれている環境にいる人のみだと思います。そんな社会が整うためには、ながいながーい道のりをへなければいけないと思うし、多くの課題が山積みだと思っています。それはまた後日。

14 Comments on “私がこどもを産んだワケ(「キャリアを追及する限り出産のベストタイミングなんてない」)

  1. Pingback: 私が家族で渡米したワケ | 海外でもワーママ生活

  2. はじめまして。

    現在、3年間の社会人経験を経て、海外の大学院に留学しています。
    一緒に暮らしているパートナーと、今後のキャリア・出産子育てのタイミングについていろいろと考えていたところでしたので、とても参考になりました。

    ありがとうございました!

  3. AKIKOさん、コメントありがとうございます!

    参考になったといっていただいてとても嬉しいです★ほかの記事でも、同様の感想を抱いていただけるように発信をがんばっていきたいと思います!

  4. Pingback: こどもを産むベストタイミングっていつだろう~入社3年目の自分vs 入社9年目の自分を比較してみる~ – 海外でもワーママ生活

  5. はじめまして。海外で出産を考えており、検索でこちらのブログにたどり着きました。
    アメリカ人マネージャーの方の言葉が刺さりました。そういってもらえるような働き方をしていれば、社会は受け入れてくれるはずですよね!

    シェアしてくださりありがとうございます。参考になりました :)

  6. Ayumiさん

    コメントありがとうございます♪
    そうですね、私にとっても当時のアメリカ人上司の言葉は、今振り返っても、胸に刺さるものです。同じように考えてくれる人が、どれだけいるかはわからないものの、そういった言葉をかけてくださる人がひとりでもいるとなんだか心が救われますよね。私の気持ちが少し軽くなったように、Ayumiさんの心を少しでも軽くできたなら本当に嬉しいです◎

  7. はじめまして。
    仕事と子育ての両立について検索していてこちらのブログにたどり着きました。

    思いもよらない妊娠、授かり婚、社歴、海外へのあこがれ等、置かれている状況が全く同じものです。

    今は育休中ですが、これからの不安、それに勝って今の状況を受け入れられず悶々と悩む日々を送っていました。

    そんな中、こちらのブログに出会い、こういう働き方もあるんだと勇気付けられました。

    参考させていただきながら、頑張っていきたいと思います!!

  8. はじめまして。今、転職活動と婚活中で、人生ぐらぐらなアラサーです。
    「一番は子どもが欲しい。でも、今契約社員なので、先に正社員で働いてからじゃないとその後が厳しいのでは。一方で、転職したら慣れるまで婚活どころじゃなくて、結婚・出産がどんどん後ろ倒しになるかも。」と色々考えて無限ループに陥っています。
    そんな中、こちらのブログにたどり着き、少し癒やされました。アメリカ人マネージャーのお言葉はとっても響きました。この記事を書いて下さってありがとうございました!

  9. 初めまして。
    日本の会社で、ワーママ VSイクボスをテーマにしているWGで活動中です。HRではありません、普段は法律系の仕事をしているワーママです。キャリアとの両立を日々奮闘していますので、ぜひともいろいろ情報交換をさせてください。
    よろしくお願いいたいます。

  10. RJeanさん
    コメントありがとうございます!わたしも法律系の仕事しています♪情報交換、ぜひお願いします!

  11. この記事にとても共感しました。私も海外でフルタイムのワーキングママ、法律関係の仕事しています。学位やキャリアと妊娠時期について、私も身近な人の一言で同じように支えられた経験があります(私の場合は、大学院時代のアメリカ人教授の「なるべく早く産んどきなさい」というストレートな言葉でした。)キャリアを考える多くの女性に、この記事を読んでもらいたいですね。こういう事を話す場合、待機児童解消とかの政策の話になりがちですが、それ以上に必要なのは、まず「キャリアのために出産を諦めたり、先延ばしにする必要はないし、責められたり罪悪感を感じる必要もない」という考えを広めることではないかと思います。私も「絵に描いた餅」をペタペタ貼る作業に加わりたいと思います。この記事を書いてくれてありがとうございます。

  12. Mayさん、コメントありがとうございます!こうやって共感いただけて、コメントを頂ける、それだけでなんだか勇気づけられます。私自身、こうやって細々と発信を続けても、あまり意味がないのではないか、と心折れそうになることもしばしばなので、Mayさんのメッセージで、まだまだがんばらなくちゃ!と力をいただけました★

  13. こんばんは。
    この記事、とても頷きながら読ませてもらいました。
    私は、以前所属組織から派遣される形で米国大学院に留学してる際に思いがけずに妊娠、出産し、初めての育児と並行しながら大学院を卒業した経緯があります。もう5.6年前のことになりますが、所属組織には前例のないことで、留学続行の是非に関して組織との間で当時は色々ありました。
    いまは東京でワーママしてますが、まだまだ妊娠、出産のタイミングについて個々人の考えが尊重される空気は醸成されてないなぁと感じます。
    自分の子ども達の時代には、もっと日本の社会の空気を変えたいと、日々思ってます。
    これからのブログ更新も楽しみにしてますね。

  14. はじめまして!既婚、子なしのアラサーOLです。ブログ読ませていただき、同じ女性で、しかも子供を連れて海外で活躍されているなんてとっても素敵だなと思い読ませていただいています。年齢的なこともあり、出産への焦りと海外で働いてみたいという気持ちの狭間で悩んでおり、とても参考になります!ブログの更新楽しみにしてます!

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