Posted on 5月 27, 2015
育休明けのモチベーション、どうやって維持する?
育休明けにとどまらず、長いブランクの後の職場復帰、不安ですよね。かくいうわたしも、ある意味二年間東京の業務から外れていたので、何を隠そう復帰を前にかーなーりドキドキし不安定な状態です。さらにいえば育休明けというのは、単なるブランクにとどまらず、こどもというコントロール不可能な、巨大な不安要素を抱えての出発です。そして私の経験と周囲から聞こえてくる声を総合すると、育休明けのモチベーションを維持すること、これは個々人にとって本当に大きな課題になっていると思うのです。
というわけで、本日のお題は、育休明けのモチベーション維持の方法。
元日経新聞記者の中野円佳さんの著書「育休世代のジレンマ」は、出産後のモチベーションの維持についても分析をしている本です。この本では、2000年代以降に入社し、やりがいを求めて「男並み」にバリバリ働いてきたキャリアウーマンたちが、出産を機に、育休後のモチベーションを維持できずに、挫折を味わい、退職をしたり、競争から下りることを選択していく、という様子が、15人のインタビューを通じて丁寧に分析されています。私たち世代がかかえる、口になかなかすることができなかった苦しさ、悔しさ、葛藤を見事に指摘し表現している本です。
「育休世代のジレンマ」では、こういった出産後のモチベーションの低下を招くこと、いいかえれば女性活用がうまくいかないのは、女性の意識や個人の選択の問題ではなく、構造上の問題である、と指摘をしています。ざっくりまとめると、既存の枠組みの中で競争をあおることにより、既存の枠組みには当てはまらない「マッチョ型(※子供を持っても関係なく従来の「男並み」に働き続ける形)」ではない子供を持つキャリア女性を排除している、とい分析をしているのです。
わたしはこの指摘には大賛成で、本を読んで胸がスカッとしましたし、時々読み返しては勇気づけられもしています。
ただ、「育休世代のジレンマ」の指摘のとおり、確かに構造上の問題でもあると思うのですが、でも、そうはいってもなかなか企業全体の意識や構造がかわるわけではない、というのが悲しいかな現実です。そうすると、企業の中にいる私たち子持ち女性は個人としてどうしたらいいのでしょうか。
構造が変わるのをじっと待っているだけでは何もかわりません。いくら外部で追い風が吹いたって、誰かが鶴の一声で組織を変えようとしたって、企業の中、すなわち社員の中から、少しずつ新しい意識を浸透させて変えていかなければ、その企業の体質は変わらない。体質をかえていくには結局、先人たちが踏ん張って切り開いてきてくださったように、少しずつでも、企業の中にいる社員が「こういう事例もあるんだよ」と自らの行動と成果で、上に、横に、そして下に示していき、理解や共感を得て浸透させていく「草の根運動」が不可欠だと思うのです。
では、草の根運動を担わなければならない私たちはどうしたらよいのか。仮に二人目を妊娠して復職したときに、わたしは、どうやってモチベーションを維持しておそらく待ち受けているであろう挫折や葛藤を乗り越えていけばよいのでしょうか。職場に見切りをつけてより「自由」な職場に行くというのも、ひとつの手段ですが、そうはいっても、なかなか難しいというのも現実。。。私たち個人として、どうにかこうにかモチベーションを維持して乗り切っていくということも考えなければならないと思うのです。
実は「育休世代のジレンマ」をきっかけに、このテーマについて、子持ちの友達と語り合う機会が何度かあったのですが、そんな議論の中で出した、自分なりの現時点の答えを3つ記録しておきたいと思います。自分の第一子の育休後の体験も踏まえて。
モチベーション維持の方法その1:短期(1-2年)の目標設定を
子持ちの近しい友人に言われてはっとしたことがあります。「あなたが出産後も仕事を猛烈に頑張れたのは、留学の社内選考に選ばれるという短期の目標があったからなんだね」と。
そうか、そうなのか!と目から鱗が落ちる思いに駆られました。
たしかに、私は第一子の育休後、無茶苦茶働きました。母としてできるだけのことをやりながら、それでも、周囲の子供のいない同年代よりもパフォーマンスが劣って見えないように、オフィスでの残業こそ少なかったですが、深夜に起きて仕事をし、出張にも行き、時には体を壊しながら必死に食らいついていました。なぜなら、そう彼女の指摘どおり、「留学選考に乗っかる」という短期決戦の目標がそこにあったから。
では、こういった分かりやすい、短期決戦の目標が仮になかったら?周囲の視線を感じながら後ろめたい思いを常に抱えながら、就業時間直後に一人帰宅したり、深夜に吐きそうになりながらふらふら起きて仕事をしたり、子供が大泣きしているのを振り切って出張に行ったり、熱のこどもを預けて会社にいったり、そしてひいては自分自身の体を壊したり、そういったクリボーのように次々と襲い掛かってくる敵を倒し続けることができたでしょうか。どこかで、「あああああ、もう疲れた!もう無理!私には無理だ」と心が折れ、とっくの昔に競争社会から降りていた気もするのです。
友人の指摘があるまで、わたしは、自分のモチベーションの源泉には気づいていたものの、仮に留学という目標がなくても、同じように頑張れるものだと漠然と思い込んでいました。そして自分のように、出産前まで「バリキャリ」思考できた人は、出産後も苦しみながらもそれを乗り越えていけるものだと思っていました。でも、具体的に想像力を働かせて「短期決戦の明確な目標」を失った自分の立場に置いて考えてみれば、、、確かに違う。そして彼女の指摘を受けて、はじめて、「育休世代のジレンマ」で記述されていた女性たちが競争社会から降りていった、その気持ちの推移が、胸にストンと落ちました。
出産前同じようにバリバリ働いていたその友人はさらにこう言いました。
「わたしは、復帰後に明確なビジョンや目標描けていなかった。女性の活躍のキーになるのは、1〜2年単位くらいの短期ビジョンや具体的な目標なのかも、って思ったよ。何もなく、淡々と働くって、特に子育てして色々な障害を乗り越えながらってのは、やっぱり難しいと思う。「とりあえず頑張ってみる」くらいだとモチベーション維持できない。」
ぐさっと胸にささった言葉です。本当にそのとおりだと思いました。
でも逆の視点からいえば、「1-2年単位の明確な短期目標」を設定するとモチベーションをキープするのに効果があるのではないでしょうか。わたしのように数年後の留学でもいいと思います。1-2年以内の異動でも、昇進でも、営業成績の向上でも、なんでも良いと思います。がんばれば届くであろう短期決戦で勝負がつく具体的な目標を設定し、とりあえずはその達成を目指してがむしゃらに働くのです。先々のことなんて考えたって、いろいろな雑念が入って気持ちは落ち込んでいくばかり。でも先のことなんて誰もわからない。誰もわからない先のことを勝手に色々妄想してモチベーションを落とすくらいなら、長期ビジョンをいったん横においておいて、それよりも目の前の目標を達成することだけを考えて働く、というのは一つの有効なモチベーションの維持の方法だと思うのです。
「できる男とは」を説くようなHow To本などでは、こういった長期ビジョンを重視しないやり方は鼻で笑われる類かもしれません。が、育休明けという緊急事態を乗り切るには正当派のやり方には頼っていられないのです。
モチベーション維持の方法その2:会社、上司との交渉、話し合いを厭わない
そうはいっても「そんなに簡単に目標設定ができたら苦労しないよ」という声がも聞こえてくるかと思います。そこで、そんな短期目標の設定のために、ひいてはモチベーションを維持するために必要なのが、会社、上司との交渉や徹底的な話し合いだと思うのです。
米国で働いている日本人以外の働き方を見て強く感じたのは、(日系企業に勤める)日本人は、自分のキャリアパス等について会社や上司と交渉や話し合いの場をあまり持たないな、ということ。お世話になった方(日本の企業勤務)がかつてこうおっしゃっていました。「異動の辞令を受けたら、どんな内容でもまず「承知しました」と答えるのがサラリーマンとしての正解」と。この言葉にあらわれているとおり、確かに、周囲を見渡しても、異動の辞令を受けた時に、特に男性の場合、その辞令に素直に従うケースが圧倒的大多数かと思います。そう、会社や上司と交渉するという発想があまりないのです。
ところが、わたしの知る限り、米国や欧州系企業に勤める人(日本人も日本人でない人も)は、異動の辞令が出ても、自分の希望に合わなければ、(日本企業で勤める私からすると驚くくらい平然と)断る。または、異動に伴う条件について様々な交渉を展開し、よりよいディールを獲得しようと、どんどこ動きます。異動にかかわらず、自分のポジション、待遇にかかわる、あらゆる事項についてもひたすら交渉を続けます。そしてそれは、当然の動きであって、なんにも「変な」ことではありません。
一方で日本企業に勤めていると、繰り返しになりますが、そんな動きはあんまり見られません。終身雇用制度に起因するものなのか、「雇っていただいている」という意識が従業員の中では強く、結果的に、「上から」下された辞令、ポジション、職務はありがたく頂戴し、反論しない、という傾向が強い気がするのです。
こういった意識は、終身雇用制、ムラ社会的、家族的日本企業の強さとも密接に絡んでくるものだと思うので、一概に否定をすべきではないのかもしれません。ただ、モチベーションを失い競争から降り、ひいては退職ということになるくらいなら、積極的に会社や上司と交渉し、話し合いをし、自分の働きやすい環境、モチベーションを維持しやすい状況を追及していく姿勢も必要だと思いますし、企業としてもWelcomeなのではないでしょうか。
特に育児中のワーママは、周囲に対して、後ろめたい思いを抱えていることもあって、自分の働く環境に不安や不満を持っていたり、モチベーションを失いかけていても、会社や上司に対してそのことを主張し、相談して打開しようとすることを避ける傾向にあると思うのです。「育児というハンデを抱えている中、働かせてもらっているだけありがたいのに、さらに、モチベーションを高められるような目標設定をしたいなんていえない」と思ってしまって声を押し殺してしまっていないでしょうか。
しかし、今の日本企業は、女性社員を、「途中で失う戦力」として起用しているわけではないと思います。であれば、たとえ周囲がやっていなくても、本当はとっても後ろめたくても、自分は重要な戦力、人材のひとつであると思いこみ、少し大胆に、会社、上司と話をしてみてはいかがでしょうか。
時短勤務をとっていたって、育休明けだからといって、働いている以上やりがいをもってがんばってもらいたい、合理的な上司であればそう思うはず。でも、そういった上司は、育児中の葛藤や抱えているうしろめたさについて「知らない」ことも多いのが事実です。ご本人が経験をしていなければ、知らないのも当然です。逆に部下として、自己の葛藤をシェアしよりよいキャリアパスを目指して積極的に話すというのは会社や上司にとってもありがたい話なのではないでしょうか。
自分の経験に少しだけ触れると、私は、上司、先輩、含めた周囲に大変恵まれていました。育休明け直後は、2年しか実務経験のないペーペーが子持ちになっているわけですから、全く使い物になりません。仕事も配慮していただき、はじめは簡単な仕事をアサインされるようなソフトランディングだったと記憶しています。しかし、「これじゃ留学にいけない」と思った私は、上司や先輩と話し、自分の目標は留学に行くこと、そのためには育児中ということに関係なく仕事を与えていただきたいこと、を伝えました。当時の上司や周囲の先輩方は、その話し合いの後、徹底的に鍛えてくださいました。良い意味で容赦なく。それでも、つらい時はつらい、と平気で泣き言をいってしまう私でしたので、上司も先輩方も、ハードワークで溺れかけている裏で、必死に育児と仕事のはしごを行ったり来たりしてやりくりしていた状況を分かってくださっていました。そうすると、なにが起きるかというと、もう自分にはできない、と死にかけているときでも、頑張っている状況をわかっている周囲から、ふとした時にかけていただける一言ですっと救われて、折れかけていた心が不死鳥のごとく蘇るのです。
そう、自分の「育児中」というハンデを無視して、上司や周囲と話し、自分の目標を探し、自分の目標にあった働く環境を作ることに協力していただくように働きかけること、これはモチベーションを維持しつづけるコツということで、振り返れば、わたしにとっては重要な要素であったように思います。
モチベーション維持の方法その3:既存のポジションをチャンスと捉える
マミートラックという言葉を最近よくみかけます。「マミー・トラック」とは、仕事と育児を両立はできるが出世とは縁遠いキャリア・コースのこと、だそうです(コとバンクより)。特に、望まずしてマミー・トラックに乗った女性は、こどもを預けてまでこのような仕事を続けるべきなのか、と悩み、モチベーションを失い、退職してしまうケースも多いのでしょう。
こればかりは、わたしは日本企業の中で転職をしたことがなく、日本で勤めていた会社のことしかわからないので、完全に的外れな意見なのかもしれませんが・・・「出世とは縁遠いキャリアコース」というのは本当にあるのでしょうか。育休復帰後、仕事の軽い部署に異動させられたといったような話を聞くこともありますが、はたしてそれが、本当に「マミー・トラック」なのかなーと疑問に思うこともときどきあるのです。
もちろん、花形のバリバリ忙しい「目立つ」部署や、役員を多く輩出している、いわゆる「出世コース」といったものはあると思います。が、そこから外れたって、学べること、得られること、自分のキャリアにとってプラスに働くことはいくらでもみつかるんじゃないのかなあと思ったりするんです。いらない部署、いらないポストだったら、合理性を追求する会社である以上なくすべきであり、その部署やポストがある以上、その部署、ポストには存在意義があり、そこから学べることってあるような気がするんです。これって、わたしの考えが甘いのでしょうか?
自分は「外された」と思って落ち込むのは簡単ですが、それよりも、そのポストに立つことで、普通の人が見えないことも見えるようになるかもしれないと前向きにとらえた方がよっぽど生産的だと思うのです。しかも、仮に、その部署が全体が「目立たない」部署なのであれば、精鋭が集まっている部署の中で育児というハンデを負いながら勝ち抜くよりも、よっぽど自分自身の存在価値を発揮するチャンスにつながるのではないでしょうか。
実際は違ったとしてもそう思った方がハッピーなことは間違いないし、モチベーションの維持にはつながると思うのです。(もちろん、あからさまに、軽い仕事内容に転換させられた等の不合理なことがあったり、職務の内容が明らかに自分のやりたいことと違うといったような場合は、そのポストについてポジティブに捉えるなんて難しいと思います。そういった場合は、上記その2に記載したように、会社、上司と交渉し、職務の変更を求めていく必要はあると思うのですが。)
やっぱりそう思うのって私が甘ちゃんなのでしょうか????この点は本当によくわからない。。。私が楽観的すぎるのかな?
最後に
と、以上3つのモチベーション維持の方法について自分なりに書いてみました。えっらそうに色々書いてしまいましたが、これを書き出した一番の目的は、実は、自分自身に言い聞かせて落ち着かせる、ということにあります。冒頭にも書いた通り、ひたすら不安なんです。東京に復帰したらどうなることやら。。。それでも上記3つの方法を常に頭に置いておけば、少し冷静に自分の状況を見極めつつ、頑張り続けることができるんじゃないかなあと淡い希望を抱いている、そんな今日この頃です。同じような不安を頂いている方と少しでも共有できたらなと思い書きました。