Posted on 6月 29, 2015
スパルタ教育が格差をなくす?(~経済格差×教育格差に直面したNYその2~)
NYにきて、強く感じるのが、経済格差が有む教育格差というもの。特に娘の通っていた学校が、NY市の抱える教育格差を解消する試みの一環で作られた学校であったということからも、この問題については特にこの一年よく考えさせられました。経済格差×教育格差について、日本の教育問題を考えるうえでも役に立つことだとおもうので、いくつかの話題に分けて、NYで感じたことについてちょこちょこ書いていこうと思っています。
今回は第二弾。貧富の差から生じる教育格差を是正しようとするニューヨークのある試みをご紹介。
貧富の差が教育の差につながるアメリカ
公立学校の成績やデータ、どこまで開示すべきだろう?(~経済格差×教育格差に直面したNYその1~)でも記載しましたが、貧富の差、経済格差が、子供達の教育環境の差を如実に生んでいるなと実感したのがニューヨークでした。同じ公立小学校でも、その環境やプログラムには大きな差があるのです。各学校の環境やプログラムに大きな影響を及ぼしているのは、先生もさるごとながら、親。親の教育への関心、経済力、等が学校に大きな影響を及ぼします。
特に大きいと私が感じるのが、PTAによるFundraising(資金調達)の額の差。この記事(PTA fundraising data shows massive gap between haves and have-nots)にNYCの公立学校のFundraisingの一覧(2013年度決算情報)が載っているのですが、トップの学校(この学校は前回の記事で良い学校として名前をあげた学校)の2013年度期末残高が$1,499,478(約1億8500万円!!!!)(うち年度収入が6700万円、支出が8500万円)であるのに対して、期末残高が$0の学校も。
Fundraisingの方法は色々な方法がありますが、豊かではない地域では、伝統的な方法、例えば、手作りクッキーやレモネードを売ったり。正直Fundraisingの額はたかが知れています。一方で、豊かな学校では、保護者が商品をだしオークションのようなものまで実施するケースも。ちなみにそういった地域はミリオネアが大量に住む地域なので、公立といえども保護者は超裕福層。出される商品もすごいですし、買い手にも困らない、ということのようなのです。
教育省は、PTA資金を主要科目の先生の雇用に用いることを禁じていますが、音楽、スポーツ、先生の教育プログラム等には用いることは認めているのです。資金の面からいっても同じ公立学校で大きな差が生じているのはわかっていただけますでしょうか。
結果的に、NY市では、80万人の子供が、英語及び算数が、その子供の学年で、あるべき到達レベルに達していないという状況になっています。さらに、黒人及びヒスパニック合計30名で構成されるKindergartenのクラスのうち、大学進学のレベルにいたるのはたった2名という現実だそう。
こういった経済格差がもたらす教育格差を解消しようとしたのが、娘の通っていた学校です。
教育格差をなくす試み―チャータースクール―
娘の通っていた学校は、Success Academyという学校(公式HPはこちら)。この学校は、パブリックスクールではなく、チャータースクールといわれるもの。チャータースクールというのは、教育省から独立している公立学校であり、パブリックスクールよりも自由に教育プログラムが設定することができます。市や州からの補助金もさることながら、複数のヘッジファンドを通じての資金調達も行っています。
Success Academyは2006年にKindergartenと1st Gradeだけでハーレムで始まったチャータースクールで、ここで、異例の好成績を収めたことから人気が拡大し、2014年には、NY市全体で32校にまで増設。elementary Schoolだけではなく、Middle School(小学校高学年~中学に該当)にまで拡大している学校もあるほど。2014年度には、約2700人の募集枠に、22000人もの応募があったとか!
人気の秘密は、費用がほぼかからない(かかるのは制服代のみ。給食費もかからない)のに、充実した予算で成り立つ、私立なみのプログラム。
まず、預かり時間が、とても長い。Kindergartenですら、7時45分~4時まで(水曜日のみ12時まで)。毎日、算数、国語、科学の授業があり、曜日ごとに、スポーツ、チェス、美術、ダンスもある。ほかにも、毎月かならずField Tripという名の遠足/社会科見学があり、博物館、美術館、動物園、サーカス、農場、スーパー、シアター、植物園、等々様々な場所に行くチャンスもありました。
さらに、この学校に入るのには、学区が関係することもある学校もありますが、いくつかのSuccess Academyは学区制限がなく、入れるかどうかは抽選で決まるのです。
そして、なによりも最大の人気要因が、好成績であります。
上図は2014年度の州統一テストの結果。ここに示されている通り、NY市では、公立学校の生徒のうち、統一テストにパスするのが算数ではわずか35%、英語では29%(この数字も結構驚きの低さ。。。)。の中、Success Academyでみると、算数は94%、国語は64%という結果を残しています。しかも、受験者の人種構成は、アフリカンアメリカン、ヒスパニックが90%を占める中で、この好成績。
人種毎の統一テストの達成率を比較しても以下のとおり。NYC全体でみても、人種ごとの達成率に大きな差があるのがわかると同時に、Success Academyが好成績をのこしていることがよくわかるでしょう。
Success Academy全体ではなく個別の学校ごとにみても、算数のテストでは、NY州全体でトップ10にNY市の学校が4校ランクインしている中、Success Academyが1位と2位を占めています。この、人種構成にかかわらない、好成績が一番の人気の秘訣なのです。
好成績の秘密
なぜ、この学校が、これだけの好成績を収めているのか。その答えは、「スパルタ教育」。
その1.規律がいっぱい
アメリカの学校は、概して、(日本で生まれ育ったわたしからみると、かなり)「自由」。ルールってあるのかしら?と思うくらい、自由。服装規制がないことは、保育園の服装規制、本当に必要?にも記載したとおりですが、それ以外もかなり自由。たとえば、時間にもかなりおおらか。いろいろな発表の機会をとらえて、こどもたちのパフォーマンスをみても、日本の小学生のよりも、より自由な発想と個性が尊重されている気がします。変な例ですが、おそらく、自由と個性が尊重されている教育を受けているアメリカの小学生は、日本の小学校の運動会で行われるような、規律の象徴のような非常に美しい組体操なんて、しないだろうし、できないんじゃないかしら。。。(偏見かもしれませんが)。
そんな中、Success Academyには、様々なルールでいっぱい。時間厳守はもちろん。例えば、登校時間も7時45分までと定められており(Kindergartenも!)、最後は分単位で呼び声がかかり、遅刻を避けるべく、生徒と送り迎えの親が走りこむ姿は毎朝みられます。
ほかにも、廊下では私語禁止。廊下には、数字や単語のシールが一列に並べられており、廊下で並ぶときは、そのシールの上にきちんとたたなければならない。歩くときは、男の子は(悪さをしないように)手をズボンのポケットにいれなければならない。(廊下を小走りで走らなければならない宝塚音楽学校を彷彿とさせる。。。)
先生がある特定の号令をかけると、生徒たちがそれに呼応する号令パターンがいくつもある。例:先生「私に注目、1,2,3!」→生徒「先生に注目1,2,3!」のように。。。まるで軍隊。
生徒たちは、毎日、緑色のスティッカーをもらってくるのですが、これらのルールを守らず目に余る行為をすると、そのスティッカーが黄色に、そしてひどくなると、赤に変わります。そして、赤がたまると、進級できないことも。
これらのルールは驚くほど、こどもたちに浸透しており、教室を除くと、小学生や幼稚園児とは思えないほど、静かな教室。自由にしていいといわれるときは驚くほどうるさい子供たちも、授業中はびっくりするくらい静か。(まるで日本の学校のよう!と思いました。笑)
その2.ひたすら勉強と競争
ルールだけではなく、勉強もすごい。毎日の宿題の量もKindergartenからかなり多い。週に一回の半日授業の日を除き、授業も7:45-4:00までみっちり(Kindergartenで)。これは私が通っていた高校の授業時間よりも長い。笑。
さらに、毎日なんらかのテスト(算数や英語)があります。算数のテストは、満点の人は、壁に名前が張り出され、読解力のテストについては、全員の読解力レベルが壁に張り出されており、誰ができて、誰ができないのか、ということが一目瞭然! その他の授業でも良く発言できた生徒、ルールを守れた生徒、などには、積極的に、シールや、かわいい消しゴムなどの、「サプライズ」という名のご褒美が積極的に与えられる。
要は、徹底的にトレーニングをさせるだけでなく、こどもたちに、ご褒美や、成績開示という+αのインセンティブを与え、競争心をあおり、ひたすら好成績を追求させるのです。つまり、親の教育熱にかかわらず、やる気のある子供はとことん伸びるというシステム。
Success Academyのような試みは、その他のチャータースクールでも色々な形で実施されています。
課題や批判はいっぱい
個人的には、この学校のスタイルは、娘にはあっており、わたしは大満足でした。純粋アジア人かつノンネイティブは娘のみのクラスの中、当初、自信を持てなかった娘も、テストで好成績を残すことにより(この点、日本人はとても得意だと思う)、徐々に自信をつけ、結果的に友達も増え、毎日学校に行くのが楽しみな子になりました。
しかし、「自由」「自主性」が主流のアメリカ社会では、多くの批判記事も見つけられます。規律でしばるこの学校は、子供の人権をうばっている!とまで糾弾している記事もみかけました。実際に、この学校に合わない子供も多く、退学や、停学、留年も一定数いるといわれいてます。
また、既存のパブリックスクールを否定する流れでもあるので、チャータースクールそのものに対して批判的な意見も多いのです。例えば、現NY市長は、チャータースクールのシステムと真っ向から対立。チャータースクールにNY市が無償で場所を提供しているのですが、これを取りやめるように制度変更を実施。それに対して、チャータースクール側は訴訟を提起し、勝訴。市長との対立はいまだ続いており、Success Academyを含むチャータースクールは、年に2回、こどもたちも巻き込んだ大きなデモを(NY市の裁判所の前でのイベントと州都でのデモ行進)ここ数年実施しています。チャータースクールの活動がわかるWebsiteがこちら→families for excellent schools
また、Success Academyが好成績をおさめるようになると、学校自体の人気が向上。結果的に、Upper WestやUnion Square校といった裕福な子供たちが住む地域にも学校が設立され、裕福な家庭の子供がこの学校に多く応募するようになってきているという現状もあります。学校に入れるかどうかは、くじの結果であるものの、裕福な層の応募が増えれば、それだけ、本来の目的である、貧しい層にも豊かな教育をという目的からずれてしまう可能性も秘めている、という批判も出てきています。
Don’t Steal Possible!(可能性を奪うな)
色んな批判があるとはいえ、わたしは、こういった試みがあるということが、本当にすごいことだなあと思いました。問題を解決しようとするときの、「慣例にとらわれない」力といいますか、推進力といいますか、それが、すごい。ニューヨークに住んで、日本と最も違うな、と思うところが、常に「変えよう」という空気があるということ。それが、この学校システムをめぐる問題でも強く感じることができました。
日本でいうと、教育委員会から独立して学校を運営。しかもそれを無償で提供するために、ヘッジファンド等から資金を調達。。。なんだか今の日本では考えられないシステムなのではないかなと思ったりします。
それでも、前回の記事でも記載したとおり、もしかしたら、こういった、経済格差による教育格差というものが、ニューヨークのように顕著になってくる時代が日本にもくるかもしれない。そうなったときに、このニューヨークで見た試みは何等かのヒントを我々の社会に与えてくれるのではないかなと思うのです。
Success Academyをはじめとするチャータースクールの試みは、まだ始まったばかり。この学校が、結果的に、こどもたちの大学進学率等にどう影響を及ぼしていくのか、これからもその結果を注目していかなければならないと思っています。
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